はじめに:猫背と言っても“種類”がある
「猫背」と聞くと背中が丸まっているイメージが浮かびますが、実際には骨盤の位置と腰椎(腰の背骨)のカーブの組み合わせで少なくとも二つの典型的パターンに分かれます。どちらも「背中が丸まっている」ように見えることがありますが、筋肉の使われ方や腰への負担のかかり方、効果的なセルフケアが異なります。
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受け腰猫背(骨盤後傾 + 腰椎後傾):骨盤が後ろに倒れ、腰の前弯(反り)が減り腰が丸まるタイプ。座り姿勢で多い。
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反り腰猫背(骨盤前傾 + 腰椎前弯増大):胸や肩は丸く見えるが骨盤は前に倒れて腰が反った状態。立ち姿勢や出産後の方、長時間のヒール着用などで見られやすい。
以下、両者を分けて詳しく見ていきます。まずは共通の前提を少しだけ。
共通の前提:多裂筋・腹横筋など「深部の安定筋」と表層筋の役割
腰椎周囲には大きく分けて「深部の安定筋(多裂筋、腹横筋、骨盤底筋など)」と「表層の動作筋(脊柱起立筋、腰方形筋、腸腰筋など)」があります。理想的には深部が短く・瞬時に安定を作り、表層が大きな動きをするときに動員されます。猫背や姿勢の崩れがあるとこの役割分担が崩れ、深部が働かず“さぼる”一方で表層が代わりに頑張り続け“過労”する、という悪循環が生まれます。
A. 受け腰猫背(骨盤後傾+腰椎後傾)――特徴とメカニズム
1) 受け腰猫背の見た目・状況
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座ると骨盤が後ろに倒れて椅子の上で背中が丸まる
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足を組む、椅子の背にもたれる癖がある人に多い
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立位でも腰の前カーブ(前弯)が少なく、腰が「平ら」または少し丸まる印象
2) 骨盤後傾→腰椎後傾がもたらす力学的影響
骨盤が後傾すると、腰椎は本来の前弯を失い、椎間関節や椎間板にかかる荷重分布が変わります。前弯が減ると、多裂筋や脊柱起立筋の“長さ–張力関係”が狂いやすく、深部安定筋が本来の短い制御収縮を行いにくくなります。代わりに、腰方形筋や大腰筋などが持続的に働き、筋緊張・硬化を起こします。
3) さぼり筋と過労筋の典型パターン(受け腰猫背)
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さぼり筋:多裂筋(深部の安定筋)、腹横筋(体幹のインナーマッスル)
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過労筋:脊柱起立筋の下部・腰方形筋、大腿二頭筋やハムストリングスの短縮が進むことも
多裂筋が十分に働かないために、表層筋が「代償的に」働き続け、慢性的な緊張が起こります。
4) 症状の現れ方(臨床でよく聞く訴え)
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座位での腰の重だるさ、ズーンとした疲れ感
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立ち上がりでの腰の違和感(最初の数歩がつらい)
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長時間座ると腰が固まるように感じる
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前屈での動きに違和感や痛みが出やすい
受け腰猫背のセルフケア
注意:鋭い痛み・放散するしびれ・麻痺・発赤・高熱などがある場合は医療機関の受診を優先してください。
準備:短いウォームアップ(1–3分)
立ったままかかと→つま先に順に重心移動をする、軽い足踏み1–2分で筋を温めます。
ステップ1:骨盤のニュートラル位置を感じる(坐骨で座る)
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椅子に浅めに座る(骨盤の座りを意識)。
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坐骨(座ったときに触れるお尻の骨)を探し、その上に体重が乗るように軽く前後に揺れる。
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前後の揺れの中間=“坐骨で座る位置”、ここを基準に骨盤を少し前に起こす感覚をつかむ。
(初めは短時間でOK。1日数回)
目的:骨盤を後傾のまま固めるのではなく、ニュートラルな位置を体感することで多裂筋や腹横筋への負担を均す。
ステップ2:多裂筋の“感覚入力”を短く行う(深部筋の再教育)
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仰向けで膝を立てる。腰の下に手の平を入れてお尻と腰の差を感じる。
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腰を大きく反らすのではなく、ごく小さく“背骨の一本ずつの動き”を意識して骨盤近くの背骨を軽く動かす。
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1–2mm程度の小さな挙上(骨盤側の背骨をわずかに締めるイメージ)を3–5秒×8–10回。
ポイント:深部筋は短時間の収縮で入りやすい。強く長い収縮は表層筋を優位にするので避ける。
ステップ3:腰方形筋・脊柱起立筋の過緊張をやさしく緩める
手で強く揉まないでOK。手のひらで皮膚をやさしく滑らせる、太ももの外側から息を吐くように→(※呼吸表現は控えます。以後記載なし)短い圧の後にリラックスを促すタッチを2–3分。痛みが増す場合は中止。
ステップ4:運動連鎖を整える短い動作(立位)
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壁に背をつけて立ち、足を肩幅に。膝は僅かに曲げる。
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股関節を使って軽く片脚の膝を前に出して戻す(ミニランジ動作の浅い版)を左右5回ずつ。
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この時、骨盤が傾かないように坐骨で立つ感覚を意識。
目的:股関節の伸展/屈曲が使えると腰の局所負担が減る。
継続と注意点
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初期は1日1回で構わない。体の反応を見て徐々に増やす。
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強い痛みが出る動作を繰り返さない。軽い違和感で止める。
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座り方の習慣(坐骨で座る、背もたれに浅くもたれる)を意識するだけでも負担は軽くなる。
B. 反り腰猫背(骨盤前傾+腰椎前弯増大)――特徴とメカニズム
1) 反り腰猫背の見た目・状況
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立ったときにお尻が後ろに突き出て見え、腰の前が強く反っている
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胸や肩は丸く、頭は前に出ている場合が多い(見た目は猫背)
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ハイヒールや腹部に負荷がかかる生活、妊娠・出産後の女性に多い傾向
2) 骨盤前傾→腰椎前弯増大がもたらす力学的影響
骨盤が前に傾くと、腰椎の前弯が増え椎間関節の後方部に圧が集中します。脊柱起立筋や腰方形筋は短縮され、腸腰筋や大腿直筋などが緊張して骨盤を前方に引き下げます。多裂筋も常に伸長もしくは不利な角度で働かされることで疲労を招き、結果として表層筋の過労と深部筋の乏しい活動が起きます。
3) さぼり筋と過労筋の典型パターン(反り腰猫背)
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さぼり筋:多裂筋(深部の安定筋)、腹横筋(体幹のインナーマッスル)—特に長時間反り続けると収縮タイミング低下
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過労筋:脊柱起立筋の腰部、腸腰筋、大腿直筋、殿筋上部の過緊張
反り腰は「腰を反らせておく」ために表層筋がずっとオンの状態になりやすく、筋スパズムや慢性の張りを生みやすいです。
4) 症状の現れ方
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立位での腰の痛み(長時間立つと辛い)
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前屈で腰の伸張感、あるいは腰椎周囲の鋭い不快感
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腰椎の後方関節面に圧迫感(腰の奥の重だるさ)
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腰を反ると楽だが、歩く・走ると痛む場合がある(負荷のかかり方による)
反り腰猫背のセルフケア
準備:短時間の軽い活性化(1–3分)
軽くその場で体重移動や歩調を整える。股関節周りを温めるイメージ。
ステップ1:骨盤を後ろに“リセットする”感覚を取る
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仰向けで膝を立てる。足は床に平行に置く。
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骨盤の前側(恥骨付近)に手を置き、骨盤を軽く後ろに傾ける(下腹部が床に近づくように)。
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その位置で骨盤を5秒キープ→リラックス。×8回。
目的:骨盤前傾のクセを“自覚”させ、後傾の感覚を学ぶ。
ステップ2:腸腰筋・大腿直筋の過緊張を緩める(やさしい伸張)
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立位で片脚を後ろに軽く引き、前脚の膝は直角。後ろ脚の股関節前が軽く伸びる位置で20–30秒キープ(無理しない)。左右1–2回。
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その後、仰向けでベルトやタオルを使い膝を抱えた方を軽く引き寄せる(反対の股関節前を伸ばすイメージ)。
目的:骨盤を前に引く筋肉の緊張を和らげ、骨盤をニュートラルにしやすくする。
ステップ3:多裂筋・腹横筋の“短い再教育”
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うつ伏せで顔は横向き(または四つん這いでも可)。腰の近くの背骨に軽い“意識”を向ける(具体的には骨盤付近の背骨をわずかに引き締める感覚)。
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ごく短い(1–3秒)収縮を10回行う。強くは行わない。
深部筋は短い収縮で入りやすい。反り腰で長時間伸ばされている人はこの短い収縮が最初は入りにくいため“意識”で入れることが重要。
ステップ4:全身の連動を取り戻す動作(立位)
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壁を背にして直立(踵・殿・肩甲骨を軽く壁につける)。
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壁に沿ったまま、片脚を後ろに引いて膝を軽く伸ばした状態で股関節の伸展を感じる(前ステップで伸ばした感覚と合わせる)。5回左右。
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股関節を使って立ち上がる(意識は臀筋の収縮)。3–5回。
目的:股関節の伸展を正しく使うことで腰椎の過負担を分散する。
継続と注意点
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反り腰は“楽に見える”姿勢がクセになっていることがあるため、短いリセット習慣(1日数回)が効果的。
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腰を無理に丸める/反らせるの繰り返しは避け、ニュートラルを重視する。
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痛みが強い場合は専門機関へ相談を。
共通テーマ:相反神経抑制・さぼり筋・過労筋の臨床的意味
両タイプに共通する重要な点は**「相反神経抑制の乱れ」**です。具体的には、
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ある筋が慢性的に高い緊張状態(過労筋)になると、対になる筋(拮抗筋や深部安定筋)は神経的に抑制され、働きにくくなる。
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これが「さぼり筋」を生み、筋の役割分担が崩れると可動域制限や代償的動作が起きる。
結果、筋膜の滑走性低下、血流不良、関節面の動きの乱れといった複合的な問題が生じます。つまり、「表層をほぐす」だけでなく「深部を目覚めさせる」ことと、「関節の可動域を戻す」ことが不可欠です。
運動連鎖・姿勢概念の応用(なぜ全身を見るのか)
前述の通り、腰は足→骨盤→胸郭→肩甲骨→頭へとつながる連鎖の中にあります。
例えば:
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足首の硬さ → 骨盤位置の代償 → 腰椎の負担増
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股関節の動き不足 → 腰が代償で動く → 多裂筋の過負荷
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胸椎の動き不足 → 頸や腰で代償 → 体幹の不均衡
したがって効果的な介入は**局所(腰)→深層(多裂筋等)→連鎖部位(股関節・胸椎・足関節)**の順で行うことが自然で再現性が高いです。
浦和ななつほし整体院でのアプローチ(方針紹介)
※以下は一般的な方針紹介です。
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評価(観察)を丁寧に行う:立位・座位・歩行・簡単な動作テストで、どのタイプの猫背か、どの筋がさぼり/過労化しているかを一緒に整理します。
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過労筋をやさしく緩める:硬くなった腰方形筋・脊柱起立筋・腸腰筋などを、痛みのない範囲で弛め、関節の可動域を出しやすくします。
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さぼり筋の再教育:多裂筋や腹横筋など深部筋を、短時間の感覚的エクササイズで「使える」ようにするトレーニングを一緒に行います。
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運動連鎖の再構築:股関節・足関節・胸椎の可動性を含め、日常動作(立ち上がり、歩き方、座り方)で使うべき筋を活性化する指導を行います。
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卒業を目指すサポート:最終的には施術の回数を減らし、クライアント自身でセルフケアを継続できる状態をゴールにしています。
この流れは「施術者が一方的に何かをする」のではなく、施術者とクライアントが協働して取り組む姿勢を大切にしています。
よくある質問(Q&A)
Q:猫背を直せば腰痛は必ず良くなりますか?
A:姿勢改善は非常に重要ですが、単に背筋を伸ばすだけでは不十分なことが多いです。深部筋の再教育や運動連鎖の改善も同時に行うと効果が出やすくなります。
Q:ストレッチだけで十分ですか?
A:ストレッチは一時的に緊張を和らげますが、深部筋の働きを取り戻すトレーニングや関節の可動域改善がないと再発しやすいです。
Q:どのくらいの頻度でセルフケアをしたらよいですか?
A:短時間のセルフケア(5–15分)を毎日または1日おきに続けるのが有効です。最初は週に数回の施術と組み合わせると習得が早くなります。
まとめ
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猫背には**受け腰(骨盤後傾・腰椎後傾)と反り腰(骨盤前傾・腰椎前弯増大)**の二大パターンがあり、どちらも腰痛を引き起こし得るがそのメカニズムは異なる。
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どちらのタイプでも「多裂筋などの深部安定筋がさぼる」「表層筋が過労する」というさぼり筋/過労筋のアンバランスが鍵になる。
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相反神経抑制の乱れが筋のオン/オフ切り替えを阻害し、慢性化要因となる。
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運動連鎖の視点から足関節・股関節・胸椎も評価・調整することで腰部の負担は大きく変わる。
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セルフケアは「過労筋をやさしく緩める → 可動域を取り戻す → さぼり筋を再教育する → 運動連鎖を整える」順序が効率的。
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浦和ななつほし整体院は、施術者とクライアントが一緒に改善を目指し、最終的に“卒業できる整体”を理念としてサポートしています。
■ こんな方は一度ご相談ください
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猫背を整えたいけれど、自分では限界を感じている
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長時間のデスクワークで腰が固まりやすい
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反り腰・受け腰のどちらか自分で判断できない
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姿勢改善と動きやすさを両方めざしたい
姿勢が変わると、立ち姿・歩き方・疲れやすさも変わりやすくなります。
猫背と腰の不調は「がんばりすぎている部分」と「眠っている部分」の差が大きいほど続きやすいものです。
気になる方は、いつでもご相談ください。
浦和で、あなたの体に合わせたサポートをご提案しています。
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